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札幌家庭裁判所 昭和38年(家)62号 審判

申立人 早川ひさこ(仮名)

主文

下記関係戸籍につき

(1)  松本一郎と同人の三男として戸籍に記載されている松本進との間に父子関係が存在しないこと。

(2)  松本一郎と同人妻ひさこの婚姻は昭和二一年九月二七日一郎の死亡によつて解消したものであつて、昭和二六年一月一六日付美唄市長に対する届出によつてなされた上記両名の協議離婚は無効であること

にもとずく所要の戸籍訂正をすることを許可する。

(1)  本籍北海道空知郡○○町字○○○○○番地筆頭者松本洋吉の除かれた戸籍

(2)  本籍北海道美唄市字○○○○○○番地筆頭者岡田ひさこの除かれた戸籍

(3)  本籍北海道美唄市○○番地筆頭者松本一郎

(4)  本籍北海道札幌市平岸○○○番地筆頭者早川求の戸籍

理由

(本件申立の要旨は「申立人は昭和一二年一月二一日前夫松本一郎と婚姻しその間に二男一女をもうけたが、昭和二〇年七月一郎が元満洲国奉天市において現地応召したまま終戦後も一向にその消息が知れなかつたので、昭和二四年頃から現在の夫早川求と事実上の夫婦関係を結び、昭和二六年五月四日早川との間に一子進が出生した。このようなわけで上記一郎との戸籍上の夫婦関係を一日も早く解消する必要にせまられた事情もあり、後日不都合を生ずることもあるまいと考え、昭和二七年一月一六日一方的に一郎との協議離婚の届出をなし、ついで翌二八年七月九日早川との婚姻届を完了した。一方進の出生届については、当時戸籍上一郎との夫婦関係が継続中であつたためやむなく同人との間の嫡出子として届出をなしその旨戸籍に記載された。しかるに上記一郎はすでに昭和二一年九月二七日ソ連プリヤートモンゴール自治共和国ウランウデ地区の病院で戦病死しており、昭和三四年二月二四日附北海道知事の報告によりその事実が判明した結果一郎と申立人との上記協議離婚は当然無効となり、また上記進が一郎の子でないことも明らかとなつたので、これに基く関係戸籍の訂正を求めるため本件申立に及ぶ」というのであつて、本件記録中の主文掲記の各戸籍または除籍の謄本ならびに申立人本人に対する審問の結果によれば、上記申立人の主張事実は全部真実であることが認められ、その事実からすると松本一郎と申立人間の本件協議離婚は当然無効のものであること、および松本進を一郎と申立人間の嫡出三男とする戸籍の記載は錯誤であることがいずれも戸籍上明白であつて、これを是正するための戸籍訂可の許可を求める本件申立はまことにその理由がある。

ところで、家庭裁判所が戸籍訂正を許可する審判をなすに当つては、たとえば関係者の氏名、生年月日その他戸籍に記載された日時場所等の訂正の如く、訂正すべき事柄の内容を具体的に表示しなければその目的を達しない場合は格別、本件のように戸籍上の身分関係の不存在または戸籍記載の原因となつた身分行為の無効に基いてそれに適合するよう既存の戸籍記載を是正するための戸籍訂正にあつては、かならずしもその訂正内容を審判主文にいちいち具体的に表示する必要はなく、かかる具体的訂正の基本となる事項を示してこれに基く所要の訂正をなすべき旨の概括的許可を与えることもできるものといわねばならない。なぜならば、後者の場合において具体的にいかなる事項につきどのようなふり合いによる訂正記載をなすべきかは純然たる戸籍事務処理の問題であつて、本来戸籍事務管掌者の職責に属するものというべく、家庭裁判所が常にそこまで立ち入つて訂正すべき事項の範囲や訂正方法を具体的に定め、戸籍事務管掌者は審判主文に示されたところに従つてたんに機械的に戸籍の記載をするにとどまるが如きは決して戸籍訂正事務の本格的あり方ではないと考えられるからである。ことに訂正すべき事項が多岐にわたり訂正内容が複雑である事案にあつては、審判主文に表示された具体的訂正内容が市町村長の戸籍訂正事務処理の基準と一致しない場合を生じ得ることも十分予想されるところであつて、このような不都合の事態を招くことなく事柄を円滑かつ能率的に処理するためには事件の内容に応じて審判主文に基本的事項についての概括的許可のみを表示し、これに基く具体的訂正はすべて戸籍事務管掌者の処理に委ねることが認められて然るべきであろう。

よつて当裁判所は上叙の見解に基き、主文のとおり審判する。

(家事審判官 小石寿夫)

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